1億2千万頭の恐竜

 

 ある科学者によると、現代の人間一人当たりが消費しているエネルギー量を動物の基礎代謝量に変換して人間の体重を算出すると、約40トン級の生物と同じくらい、たとえるならば中型恐竜以上の大きさになるという。
 つまりいまの日本には、体長約15メートル、体重約40トン、二本足で直立歩行する中型恐竜が約1億2千万頭余りも生息し、その資源や食物を喰い散らし、それだけでも足りず海外から輸入してその巨大な胃袋を満たしているのである。
 またそれ以上にその排泄物も尋常ではない。消費された大量の資源や食物を土壌や河川に垂れ流すだけでなく、自然の成分に分解されることのない化学物質がそこら中にばら撒かれているのである。
 このような想像だけでもおぞましいことに思えるのだが、しかしもっと恐るべき怪物がいる。それは原発だ。
 福島第一原発一号機の総エネルギー量は、広島に落とされた原爆の約51個分だという。そしてチェルノブイリ事故のときに大気中に拡散された放射性物質は広島原爆の約400個分といわれているが、福島の場合はそれ以上の放射性物質を保有する。 

そのようなとてつもない怪物を地震大国の日本は活断層が走る海岸エリアなどに54頭も檻に入れて飼っているのである。政府や電力会社は安全だというが、その檻が打ち破られてこの怪物が暴走したのが、あの3・11ではなかったのか。まだおとなしく檻の中でそのエネルギーを発散させているうちは良いが、ひとたび暴走すれば国の半分を滅ぼすくらいの破壊力を持ち合わせているのである。  
 だがこの怪物のみを非難することはできない。われわれ恐竜もまた、自らが消費する大量のエネルギーを賄うために、この怪物の恩恵を受けながら生存し続けてきたわけなのだから。
 かつて恐竜は約二億年もの長い間、この地球上に君臨し繁栄してきた。それが約6500万年前に突如絶滅する。隕石など諸説あるが、その原因はいまだわかっていない。われわれ人類もまた同じような状況下にあるのかもしれない。
(詩誌『この場所ici』7号より)